伊藤文子です。
今回も引き続きHarmoni解説です。
その1では画材やサイズ、ストーリーについて。
その2は作画に至る経緯。
そしてその3の今回はプロセス、どのような過程を経て出来上がったのかを
ご説明申し上げます。
もともと布絵本として出来上がった原案「月と太陽の指環」がありました。
この話は簡単に言うならば、男の子が指環を作る話です。
ですので、それまで重ねた取材や、ノルウェーに着目し、
楽器を描くことで本領が発揮されるのでは無いかと考えました。
だけれども。。やはり弦楽器の経験がないので、弦楽器を知ることから
はじめて、音を感じ、ハーディングフェーレの響きを再確認しなければ
難しいのだろうという結論に至ったのです。
頭にはこうしたい、こんな感じというイメージがぼんやりあっても
なかなか表現できず、フラストレーションでした。
作画のためのノルウェー体感要素は足りているとわかっていたので、
楽器や奏でに着目することにしました。
そして、いきなり経験のない弦楽器に触れるのはそれなりの覚悟が必要でしたので、
まずは高校時代の友人とオーボエのリード屋さんを覗いてクラシカルな
楽器に触れる準備をします。
友人が楽器に触れる姿勢やお店の中の雰囲気、同じ空間に同じ楽器が数本、
そしてそれぞれ違った奏で。
人と自然素材の振動というのは単純に奥深いなと思いました。
ダブルリードはよく見るとピーピー豆の断面に似ています。
日本でプロのハーディングフェーレ奏者をされている方は、
ヴァイオリンを演奏なさる方が多いようで、かといって私は
演奏と言うより作る方の側を知りたかったので、知り合いのつてを辿り
まずはバイオリン工房の職人さんにインタビューをさせていただき、
少しだけ、入口に入った気がしました。
その時に快く工房見学とお話をしてくださったバイオリン製作者の
河村盛介さんにはとても感謝しております。
どことなく木の妖精のように平和な方でした。
河村さんの工房のお道具たち。かわいらしいです。
ハーディングフェーレとヴァイオリンは別のもの、と知ってはいたのですが、
プロのお話を聞くほどに、それを実感しました。
描くべきはハーディングフェーレなので、ここでやはり
ハーディングフェーレ製作密着をと原さんにお願い、、、
したつもりでおりました。
けれども、この作業が見たい、と言うわけでもなく全体的に感じたかったので、
原さんもどこを見せたらいいかわからなかったようで、
製作作業は進んでいるのに私は見学できない状態が続きました。
そりゃあ、そうよね、仕事場なのに日がな年中見せてくれと言うのも
無理な話です。
そこで、では私がつくればいいのかな?と思い「楽器つくります!」
と、もはや弟子入りの決意(??)と共にお願いし、
製作に取り掛かかることになりました。半ばやけで始めた製作で、
全然進みませんし、もしも出来上がっても演奏できないし、、、となり。。。
そして、では演奏の勉強も!となり、初心者にも優しい島村楽器さんで
ヴァイオリンのレッスンを開始。
借り物の初心者用バイオリン
毎日30分練習曲の練習です。島村楽器の方々にも偉いですねと褒めらるほどでした。
ここですぐにハーディングフェーレを始めればよかったのですが
マニアックな楽器なので、習える環境も限られます。
と言うわけで結局ヴァイオリンになりました。
家ではヴァイオリンの練習、工房でハーディングフェーレ作りの勉強、
原さんのハーディングフェーレをこっそり鳴らして顔色を伺ったりと。
面白いのが原さんの反応で自分が音を出せていないのがわかったところです。
目は口ほどにものを言うと言うのは本当です。
フェーレを作るもとの板を貼り付ける作業
緊張の瞬間で手の動きに躍動感があります。
なんとなくハーディングフェーレを体感できず、もやもやしていたところで
遂に、ハーディングフェーレ演奏のお教室に行きます。
場所は巣鴨のレソノサウンドさん。
この時の先生で、またミニインタビューに答えてくださったのが
演奏家の野間友貴さんです。大変にわかりやすく教えてくださって、
私が知りたかった弓と弦と体と大地が共鳴する感覚を与えてくださったことに
感動しました。特に私が楽器を持ち、野間さんが弓で弦を弾いてくださった時に
楽器が鳴ると言う感覚を強く感じました。楽器が体の筋肉や関節と一体化して
肉体の全てが楽器の一部になると天地人の状態で奏でられるのかな?と思えて、
これはとてもいい経験でした。
天と地の間に人が立ちその二つを繋ぐよう響かせるとでも言いましょうか。。
バイオリンやハーディングフェーレは楽器の中に一本、魂柱と呼ばれる棒が
立っており、それが音を響かせる重要な役割を果たしていますが、
楽器の表板と裏板を天と地とした場合、魂柱は私が体験した体が響く感覚
を担って居るのだなと思いました。この棒は英語でたぶんサウンドポスト?
と言う名前だったと思います。夏目漱石が魂柱と訳したらしいのですけど、
漱石の感性には感服します。
野間さんがお持ちの楽器(のはず。。)
頭部を見てフェーレ製作の間に描いたカラフルデッサン
ここで私は、フェーレ作り、バイオリン演奏、フェーレ演奏と、もう手一杯。
どこへ行きたいのだろうかとなるほどです。
譜面が多少読めたのはせめてもの救いでしたが、
音と色、描く、ノルウェーなどフラグが立ちすぎて頭はパンク寸前です。
そしてさらに、不思議なご縁のお友達、ピアニストの安保美希さんに
お誘いいただいて彼女のイベントでフィンランドでヴァイオリニストを
されている方に色と音について質問したり、
また安保さんの生演奏を色と形にして確認したり。もう大変です。単純に疲れます。
この状態でパンパンになりながら、大きなキャンバスにこの全ての
経験を注ぐことになったのです。
描くことにつまづいたとき、製作途中の写真を見せては原さんの意見を
参考にしたり、イメージにあった曲を聞いたり。
たくさんの過程を経て一つの作品となったのでした。
書き連ねると多くの方にお世話になったな〜と実感します。
みなさま本当にお世話になりました、そしてありがとうございます。
全て自前で経験したので、これがどうにか次回の製作の足しになれば
いいのですが、、、どうにか次の製作費用を捻出しなきゃ!と思うのだけども。
そこだけはいまだに苦手で。あぁこれではいわゆるお金のない芸術家です。。。
みなさまこれをどんな形の製品にして手元に置きたいですか??
と、今はそればかり気になる毎日です!(笑)
でも、この絵でみんなの心が暖かく元気で、本当に健やかに
そして真に癒されればそれが私の幸せであり、本望です。
このシリーズは続けて描きたいと考えています。
たくさんの作品を展示できるその日まで精進です。
Harmoni総まとめでした。
Tusen takk for alle!
◉お世話になった皆さま
バイオリン製作家の河村盛介さんのページ
初心者もOK島村楽器さん
北欧楽器などの貸出、レッスン練習のできるレソノサウンドさん
演奏家の野間友貴さんのページ
ピアニストの安保美希さんのページ